魔法使いみたいな野球コーチ
宇佐美圭吾

魔法使いみたいな野球コーチ

松戸市子ども会常盤平地区で、特別野球コーチを務めている宇佐美圭吾さん。
今年、大学を卒業し社会人となったが、子ども達の成長と大きな夢を持ち続けることができる環境づくりに、大学時代から野球を通して貢献している。
日本大学硬式野球部で活躍していた宇佐美さんは、松戸市子ども会常盤平地区開催の『ベースボール・クリニック』の主任コーチとして、子どもたちの指導にあたってきた。2ヶ月に1回ほどの開催だが、鍛え抜いた大きな身体でプロ級のプレーを身につけた宇佐美さんの指導を、子ども達はとても楽しみにしている。時には、同大学の部員なども指導陣に加え、投球、守備、打撃などについて、一人ひとりにきめ細やかな視線を送り、言葉をかける。
彼の指導方針は、基礎・基本を徹底的に身につけさせることにある。華々しい野球経歴を持つ宇佐美さんは、決して特別なプレーについて子ども達に語ることはない。彼の指導は、『基礎を身につけるための地味な練習を、いかに目的と目標を持って楽しく取り組める気持ちをつくるか』にある。

例えば、バッティング。コンパクトなスイングを心掛けさせるために、多くの指導者はただ『脇を締めろ』とだけ言う。彼の指導はこうだ。子どもを呼び寄せ、まず素振りをさせた後で、こう伝える。『両手の平を上に向けて、小指の第1間接を合わせてみよう。そこにチョコンとバットを置いて。そして、両手指の第2関節でフワッと包むように軽く握ってみて。そのまま、振ってごらん』。すると、グリップを搾るように握るため、自然と脇が締まり、身体がブレないコンパクトなスイングが自然と身についている。子どもはその感覚の違いを体感し、新鮮な感覚がその子の中に沸き起こる。“気付き”と“実感”を同時に体感した子どもは、目を輝かせ、黙々と素振りに打ち込むようになる。
これが、楽しく基礎を学ぶ意識作り。全てのプレーに同様の指導がなされ、彼の指導を受けた子どもは、もっともっと野球が好きになる。

「失礼ですが、多くの指導者は、子ども達にセンスが有る無いなどを簡単に言いすぎです。そして、チームの勝敗にこだわりすぎて、上達の早そうな子に目を向け過ぎではないでしょうか」。
穏やかな口調ではあるが、子ども達を指導する側に疑問を呈する。それよりも、どうやって野球の素晴らしさを伝え、野球を好きだという気持ちを育てるかが、最も大切なことだと言う。

そんな彼が披露してくれたエピソード。
小学校6年生の時、投手をしていた彼は、ある大きな大会の決勝戦で負けてしまい、初めて野球を通して号泣した。その彼の元に、相手チームの監督以下、全ての保護者が歩み寄り、彼とチームの善戦を大いに称えてくれたそうだ。このことで、少年だった彼は、さらに努力する気持ちが芽生えたのだという。
「僕はプロにはなれなかったけれど、野球を好きでいるのに立場は関係ありません。僕にとって、子ども会で指導する機会に恵まれたことは、もっと野球を好きな子を増やすというこれからの目標にもつながりましたし、とても感謝しています」
183センチの大きな身体で、しかし子どものように目を輝かせて野球を語る宇佐美くんの元から、将来プロ野球選手が誕生することに期待したい。

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